私たちが普段「自分」として意識する存在は、本当に実体があるのでしょうか?この問いを深く掘り下げていくと、意外な結論にたどり着きます。「私」というのは、実は自分の経験とその解釈から作り出された「ラベル」に過ぎないのです。このことに気づくことが、固定された自己の枠を超えて、新しい人間像である「ニューヒューマン」への第一歩なのです。
常に変わる「自分」
私たちは、思考や感情、環境の影響によって常に変化しています。例えば、気分や体調は一日の中でも刻々と変わりますし、どれも一時的なものです。これらの変化は、自分の感覚や気持ちに大きな影響を与えます。例えば、朝に感じていた意欲が午後には消えてしまうことがありますが、これも一時的なもので、その瞬間の自分を完全に定義するものではありません。こうした変化があることで、「自分」とは本当に固定された存在なのかを疑うきっかけとなります。それにもかかわらず、私たちは「自分はこうであるべきだ」とか「自分はこういう人間だ」といったラベルを貼り続け、そこから抜け出せないことが多いです。この固定観念が苦しみの原因となり、変化を恐れる執着を生み出します。
ニューヒューマンとは?
「ニューヒューマン」とは、この固定観念から解放され、自分に対する執着を手放した新しい人間像のことです。例えば、まるで川の流れのように、環境や状況によって形を変えながらも、全体として調和を保つ存在をイメージしてください。ニューヒューマンとは、固定された自分の枠を捨てて、柔軟に変化し続けることのできる人間像なのです。具体的には、「自分がこうでなければならない」という考えを徐々に解きほぐし、自分を宇宙とつながる一つの流れとして捉えることです。私たちは無数の人間関係や経験、感情や思考によって絶えず変わり続ける存在です。だから、同じ「私」をずっと維持することは不可能です。
ダイアードによる自己理解
セミナーでは、こうした自己理解を深めるために「ダイアード」という対話の方法がよく使われます。ダイアードでは、相手と向き合い、自分の内面について話し合います。この過程で相手からのフィードバックを受け取ることで、自分の考えや信念がどれだけ一時的で変わりやすいかを実感できます。自分の心の奥にある価値観や感情を相手に伝えることで、少しずつ自己に対する固定観念が崩れていきます。
また、ダイアードの重要なポイントは、相手の反応を通して自分を新しい視点で見ることができるということです。例えば、自分が抱えている「私はこうあるべきだ」という思い込みが、相手との対話を通して、どれほど自分自身を縛っていたのかに気づくことができます。相手からの質問や反応は、自分自身を再発見する手助けとなり、新たな気づきをもたらします。
さらに、ダイアードでは、安心して内面を開くことができる環境が整っています。相手も同じように内面を語り、互いに尊重し合うことで、より深い自己探求が可能になります。このように、対話を通じて「自分」という枠組みを柔軟に捉え直すことができるのです。結果として、ダイアードを通じて、私たちは自分がいかに変化し続ける存在であるかを理解し、固定観念に縛られない新たな自己像を発見することができます。
思考と事実の分離
また、「思考と事実の分離」というエクササイズもあります。このエクササイズは、自分の感情や思考に振り回されず、冷静に観察する習慣を身につけるためのものです。例えば、学校で友達との会話で誤解が生じたと感じたとき、その感情が自分自身の価値に関わるものだと思い込んでしまうことがあります。しかし、感情と事実を分けて考えることで、「ただ意見の違いがあっただけ」と理解でき、余計なストレスを減らすことができます。例えば、ストレスを感じたとき、そのストレスが「自分そのもの」のように思えることがありますが、それも一時的なものにすぎません。「この感情は本当に自分の一部なのか?」と自問することで、実体のない「自分」という幻想が明らかになります。
このエクササイズは、日常生活の中での対人関係や仕事でのストレスに非常に効果的です。たとえば、職場で上司に注意されたとき、そのフィードバックが「自分の価値を否定された」と感じることがあるかもしれませんが、それを思考と事実に分けて考えることで、「上司が伝えたのは仕事の改善点であり、自分全体を否定しているわけではない」と冷静に受け止めることができます。こうすることで、ストレスや不安を軽減し、自分に対する過度な批判を減らすことができます。
自分という概念を超える
こうしたトレーニングやセミナーを通じて「自分」という概念の儚さを体得することで、人は不必要な苦しみから自由になることができます。「自分」への執着を手放し、変化を受け入れることは「ニューヒューマン」のあり方です。それはただ自己を捨てることではなく、むしろ他者や社会とのつながりを深め、より生き生きとした人生を送るためのものです。そして、このプロセスは、自分自身と他者との間に築かれた壁を取り除き、より深いレベルでの理解と共感を促します。変化を恐れずに受け入れることで、私たちは本来の柔軟で自由な姿に戻ることができるのです。
さらに、「ニューヒューマン」として生きることは、常に進化し続けることを意味します。それは過去の固定された自分像にとらわれるのではなく、経験を通じて成長し、今の自分を受け入れる姿勢です。このようにして他者や環境に対してオープンであることは、新しい機会や発見を受け入れる力にもつながります。
また、「ニューヒューマン」として生きるということは、単に個人の成長にとどまらず、社会全体への貢献にもつながります。自己への執着を手放すことで、私たちは他者との連携をより大切にし、共通の目標に向かって協力する姿勢を持てるようになります。これにより、社会全体がより協力的で調和の取れたものとなり、個々の幸福だけでなく、集団全体の幸福にも寄与することができるのです。
最終的に、「ニューヒューマン」の生き方は、ただの自己放棄ではありません。それは、自分をより広い視点から捉え、他者との協力や共存を重視する生き方です。そうすることで、私たちは個々の枠を超えたつながりを築き、より豊かで充実した人生を送ることができるのです。
私たちは、宇宙と共に常に変わり続ける存在であり、「私」というものも幻想にすぎません。この理解を日常に取り入れることで、私たちは「ニューヒューマン」という新たな人間像に近づくことができるのです。そして、この理解を深めることで、私たちは個人の成長だけでなく、社会全体の調和にも貢献できる存在へと進化していけるのです。