なぜなら、他人が観察できないその人の頭の中だけの思考や感情にその人の行動が支配されているのですから。
この人は、物理的に不可能な障害のために行動できないのではなく、
頭の中にある幻想や妄想によって行動ができなくなっているのです。
思考や感情は脳が生み出す作用であり、それは事実ではなく、単なる事実の解釈にしか過ぎません。
事実そのものには意味がありませんが、脳はそれを意味づけて「事実」として私たちに提供します。
しかし、それは意味づけであって、事実そのものではありません。
思考(事実の解釈、意味づけ) ≠ 事実
この意味づけは脳の中で行われるのです。
意味づけだけではなく、理由づけ、評価、判断などによって、思考はますます事実のように見えてきます。
私たち人間が思考を持つ限り、このことはずっと頭の中で行われます。
しかし、どんなに事実のように見えても、思考は事実そのものではないのです。
ここはとても大切なところです。
私たちは、思考が作り出す解釈を事実だと信じ、行動します。
この解釈の違いで、人は苦しんだり苦しまなかったりします。
古代ギリシアの哲学者 エピクテトスはこう言いました。
人間を不安にするものは物事そのものではない。
物事に対する見解が人間を不安にさせる。
苦しみの原因は、私たちの外の世界にあるのではなく、
私たちの頭の中にあるのです。
手足を鎖で縛られているわけではないのに、
頭の中の妄想(物の見方・解釈)によって、自ら行動を制限しているだけなのです。
苦悩から抜け出すためには、人や社会を変えることより、
思考や感情との関わり方を変えることによって、自分を変えてゆく必要があるのです。
もし、今あることを体験して悩むことがあったとしても、
そもそもそれを悩まないようになってしまったら、
悩みなんてどこかに行ってしまうのです。