年齢退行催眠という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。
催眠下で、年齢退行をすると記憶が呼び起こされる、というあれ、です。
催眠という言葉で思いつくものの代表格のようなものですね。
そして、何人かは「忘れていた記憶を思い出した」というのです。
事実、催眠中に、このように忘れていたものが思い出されるということはよくあることです。
実は、ここに大きな落とし穴があるのです。
年齢退行催眠についてのいくつかの問題点を挙げておきます。
一つ目は、催眠によって「思いだしたもの」がほとんどの場合、事実かどうか確かめるすべがないということでもあるのです。目撃者のこれまた「記憶」に頼るらざるを得ないことが多いのではないでしょうか。
けれど、あなたは56日前の昼食が何であったか思い起こすことができますか?
記憶なんてその程度のものなのです。
二つ目は、催眠状態になると自分が経験したことと見聞きしたことの混同がよく起きたりします。
つまり、それが自分が経験したものでないのに、あたかも自分が経験したもののように記憶を改ざんしてしまう働きがあるのです。
夢は目覚めたときによく覚えていたりしますが、時間が経つとともに、細部が分からなくなり、場合によっては、さまざまに作り替えられてゆきます。
こんな経験、よくありますよね?
三つ目は、催眠から覚醒した人には「事実と違うことを言っている・思い出してしている」という自覚がないために、その内容を信じてしまい、そして、それにあった証拠だけを集め、ますます信念を強固にしてしまう傾向があるのです。
四つ目は、催眠者が意図しようがしまいが、その暗示によって、記憶が形成されることすらあります。
いずれの場合も、このように、『催眠』というキーワードが出てくると、不思議なことに無批判にそれが事実だと簡単に信じてしまう人が多いのです。
アメリカでは、催眠下で「親にレイプされた記憶を思い出した」として親を訴えるという痛ましい裁判があったりします。
いわゆる有名な「ニセ記憶に裁判事件」です。
年齢退行催眠は、催眠を楽しむという意味ではおもしろいものですが、それを無批判に事実として信じてしまうことは、被験者の心の状態や在り方に大きく関わっているものでもあります。
催眠で思い出したことがあったら、まず、それが事実であると信じずに、本当のところはどうか、という姿勢で臨むことが大切ではないでしょうか。
思い出したものと事実は違うということ、これはしっかりと分かっていただきたいと思います。
逆に言うと、年齢退行を主とした治療手段としている安直な催眠家は、要注意ということになりますね。
